30個のペットボトルをリサイクルできるのと、5個のペットボトルをリサイクルできるのと、どっちがいい仕事?
先日、実践報告会にお邪魔した時のお話。
強度行動障害の男性についての実践報告がありました。体も大きく、重度の知的障害で自閉症の太郎さん。太郎さんの仕事はペットボトルのリサイクル。他の利用者さんがラベルをはがしたペットボトルを、職員と一緒にスーパーに持って行って、リサイクルの機械に1個づつ投入し、つぶす。
しかし、太郎さんは、その仕事の時、頻回にパニックになってしまっていた。
そこで職員は考えた。「このごみ袋満載のペットボトルを見て、太郎さんは
”どんだけせなあかんねん!”と見通しが持ちにくくなっているのかもしれない」
そう思った職員は、洗濯物を入れるような取っ手のついたかごを用意した。太郎さんが自分で持ちやすいように。その中にペットボトルを5本。縦向きに並べて、ペットボトルの飲み口の部分を持てば、そのまま機会にスっと投入できるようにした。
さて、ある日、ペットボトルが5本入ったかごを持った太郎さんは駐車場の車に向かう。「あ!太郎さん、違う。今日はこっちの車!」職員の言葉に一瞬「チっ!」という顔をした太郎さん、乗るつもりだった車と違う車に向かい、後部座席のドアに手をかけた。…開かない。「あ!太郎さん、ごめん、鍵あけるの忘れてた!」太郎さんはまた「…チッ」みたいな顔を一瞬したけど、鍵が開いたらすっと車に乗った。
職員と一緒にスーパーに到着した太郎さん。自らペットボトルの入ったかごをもって、堂々とリサイクルの機械の前に。5本のペットボトルを次々に機械に入れ、終了のボタンを押して終わり!
振り返った太郎さんの顔は満足感で「やったぞ!」といういい表情でした。
そのように方法を変えて、太郎さんのパニックは減ってきたとのこと。(他にもいろいろな働きかけもありましたが)
そして、行動障害タイプの方の支援をしたことのある方はご存知かと思いますが、「思っていた車と違うのに乗る」とか、「鍵があいてない」とか、見通しが崩れることは、パニックを起こしかねない要素でもあります。職員からすると「やってもーたー!」と言う感じです。以前の太郎さんならそこでパニックだったかもしれない。でも、太郎さんは、目先の予定の崩れより、このカゴの中身をリサイクルするという、その先の見通しを支えに次に進んだのではないでしょうか。
この実践は示唆がある実践だと思いました。私はコメントを求められたので以下のように言いました。
「いま、社会は”数をたくさんすること”や”スピードを上げること”、そうやって生産性をあげることがいいことだという評価が多いです。この実践も、そういう評価軸を持ってきて、30個できていたリサイクルが5個になった、という評価をすると、ダメな実践ということになるかもしれない。でも、太郎さんは、5個のペットボトルをつぶすことで満足げな表情で、達成感を感じ、パニックも減ってた。太郎さんは心地よく過ごせるようになった。太郎さんが心地よく過ごせる数は、5個なのです。心地よく生きられることはとても大切です。いま、社会の中で、もっとたくさんしなきゃ、もっと働かなきゃと、追われて、自分が心地よく過ごせない人たちがたくさんいます。「そうじゃないよ~」って、太郎さんは教えてくれているように思います。これが、「この子らを世の光に」です。この人たちの生きている姿を見ていたら、私たちがどう生きたらいいのかを教えてくれるということです。」
本当に私はそう思うのです。
Comments